2016-02-20 00:06 | カテゴリ:勉強や投資情報
クオンツの栄華と崩壊を描いた『ザ・クオンツ』を読みました。


まとめるとこんな感じです。

■基礎知識■
●黎明期●
ルイ・バシュリエ ランダムウォーク仮説・・・株価は予測不能
オズボーン 株価を物理学でモデル化・・・収益率は正規分布となる ※シンプルなモデル
マンデルプロ シンプルなモデルはファットテール(例外的な値動き)に対応出来ないので複雑なモデルを使う事を提唱→無視される
ファーマ 効率的市場仮説・・・株価は常に適正価格
●胎動期●
ソープ 物理学を初めて本格的に投資に利用(デルタヘッジ)したクオンツ、ヘッジファンドのゴットファーザで伝説的存在
ブラック ブラック–ショールズ方程式の開発者
ショールズ ブラック–ショールズ方程式の開発者でノーベル賞を受賞し、巨大クオンツヘッジファンドLTCMの創立者
●繁栄期●
ミュラー モルガンでクオンツドリームチームPDTを率いてシステムトレード「ミダス」を開発しHFTを駆使しモルガンの利益の多くを稼ぐ
グリフィン 実質的なソープの後継者で、世界最大規模かつ、最も成功を収めたヘッジファンド、シタデルの創立者
アスネス ファーマの愛弟子で、ゴールドマンサックスでヘッジファンド「グローバル・アルファ」を生み出し、独立し巨大ヘッジファンドAQRを創立
ワインシュタイン デリバティブ、特にCDSの天才で、ドイツ銀行でヘッジファンドSabaを立ち上げ、莫大な利益をもたらし、数か月無断欠勤しても文句を言われない地位を手に入れる
シモンズ 史上最大の成功を収めたヘッジファンドであり、従業員のほとんどが博士号を持っているクオンツの楽園ルネッサンスの創立者

まず本書は黎明期から説明されていますが、それは前に「ウォール街の物理学者」で紹介した内容と被るので省略。
ソープの活躍とブラックマンデーは「クオンツとブラックマンデー」で紹介したので省略。

ノーベル賞を受賞したショールズが創立した、クオンツヘッジファンドLTCM。
この注目を集めたヘッジファンドはロシア危機で破たんし、ウォール街に衝撃を与えます。
主な理由
・マンデルプロの提唱したファットテールを無視していたため、例外的な値動きに対応出来なかった
・にも関わらず自分達のモデルに絶対的な自信を持っていた
・そのため、ありえない程のレバレッジを掛けていた

→ロシア危機でファットテールが起こり、自信満々だったモデルが対応出来ず、ハイレバレッジだったので一発退場

続いてクオンツの物語は上記の繁栄期の面々に引き継がれていきます。
彼らクオンツが目指したのは、
【ザ・トゥルース】・・・市場がどのように動くのかという普遍的な謎を解明した者だけが手にできる、無限の富を生み出す聖杯
です。
ザ・トゥルースを探究する過程で莫大な富を生み出し、見つけたと思ったザ・トゥルースはしかし、幻であったと気づき、それでもまだ見ぬザ・トゥルースを追い求める戦いがクオンツにかつてない栄華をもたらし、そして金融市場にかつてない破壊をもたらす事になります。

彼らクオンツは、得意の物理学を使い、市場に出現する非効率的価格(適正価格でない状態)を見つけるとピラニアのように襲いかかり、その非効率的価格が効率的価格になる時間差を利用して利幅を抜いていきます。
また多くのストラテジーは、買いと同時に売りポジションも持つヘッジをし、リスク軽減をしていました。
※なので、こういうファンドをヘッジファンドという

しかし、彼らも簡単にザ・トゥルースに近づけた訳ではありません。

以下に貴重なクオンツの失敗例を紹介します。
・アスネス
アスネス率いるAQRはバリュー株を買い、割高株を空売りでヘッジする手法を得意としていました。
即ち、割高株を買うような馬鹿が賢くなる(見切り売りをして株価が下がる)時間差を利用して利益を出すストラテジーでした。
そのため、アスネスは堅実割安なフォードやGMを買い、割高なIT企業を空売りしていました。
しかし、時はLTCM破たんにより、これに介入したFRBが市場に流動性をもたらすために利下げをし、その資金がIT企業に流れ込んでいました。
所謂ITバブルです!
アスネスが買っている割安株は全く上がらないのに、空売りしているIT企業が常識外に暴騰していきます。
アスネスが馬鹿だと思っていた割高株を買う投資家は、アスネスが思う以上に驚異的に馬鹿だったのです。
「どうしてこんな救いがたい馬鹿のために自分が破産しなければいけないんだ」と忸怩たる想いでバブルという嵐が過ぎ去るのを耐えたアスネスは、ITバブルの崩壊(ナスダック指数5000→1114)により、利益を出してこの危機を乗り越える事が出来ました。

・ワインシュタイン
経営危機にあったGMの債券がまるで破産したかのような価格で投げ売りされており、これが適正価格でないと見抜いたワインシュタインは、GMの債券を買い、GM株の空売りでヘッジしました。
しかし何をとち狂ったか、カーコリアンという億万長者がGM株を2800万株公開買付を行うと発表したため、ワインシュタインが空売りしていたGM株は狂ったように急上昇し始めました。
そして債券の方は、格付機関に格下げされ、さらに投げ売りされ、暴落しました。
つまりワインシュタインのポジションは、売り買い両方でやられる事態・・・彼の見つけたザ・トゥルースは幻だったのか・・・しかし彼は市場は合理的な状況にないと判断し、ポジションを積み増していきました。
果たして数か月後、GM株は下落し、債券は上昇し、ワインシュタインは利益を出す事に成功しました。

・・・と不意のアクシデントで苦労した事もありましたが、結局は彼らは自らが見つけた(と思っている)ザ・トゥルースによって、莫大なお金を稼ぎ、ファンドの運用する資金もどんどん増えていきます。

その頃、伝説のクオンツ ソープはウォールストリートから身を引きました。
クオンツ全盛となったウォールストリートでは同じようなストラテジーが氾濫し、非効率的価格の奪い合いが起き、もはや利益を出せなくなったと判断したソープはそっとファンドを閉じました。
または彼は予想していたのかもしれません。
クオンツ全盛となったがために起きる悲劇を・・・

2007年8月6日(月)、運命の日、クオンツ達のポジションが突如損害を出し始めます。
自分達が買っている銘柄が暴落し、売っている銘柄が暴騰しているのです。

クオンツ達は疑心暗鬼に駆られます。
「大きなファンドがポジションを解消している!!どこだ!?なぜだ?!」
どんどん膨らむ損を見ながら情報収集するも、答えは分かりません。

ゴールドマンサックス出身のアスネスはGSに電話をするも、出てすらもらえません。
かつてない損害を1日にして出しており、それはクオンツ達の計算では、「1万年に1回の例外」でしか起こらない事態でした。

火曜日、疑心暗鬼となったクオンツ達は、損害を軽減するために、ポジションの解消を始めます。
それがマーケット崩壊に拍車を掛けます。
しかし簡単にはポジションは解消出来ません。
なぜなら、クオンツ達はそれぞれのファンド単体で何千億円も運用しており、一社でもポジションを全て解消したら、即金融危機が起きる規模だったからです。
「1万年に1回の例外」は二日連続で起きてしまいました。

水曜日、状況はさらに悪化します。
特定のポジションの投げ売り、投げ買いが殺到する市場で、今まで流動性を確保してきたHFT(モルガンのPDT、ルネッサンスのメダリオン、D・E・ショウ等のシステムトレード)が異常事態と膨らむ損失に耐えかね、レバレッジを縮小したのです。
もはや投げ売りをしようにも、買う者のいなくなった市場・・・マーケットは完全崩壊したのです。
「1万年に1回の例外」は三日連続で起きてしまいました。

木曜日、ついにダウが暴落し、世界の市場に飛び火しました。
今まではクオンツの買いポジション(優良株)が売られ、売りポジション(糞株)が買われていたので、ダウ平均自体は上げていたため、一般人にとっては、「なんか優良株が暴落してて、糞株が暴騰してるな」程度だったのです。

最初にポジション縮小を始めた犯人探しをするアスネスの元にたった一言のメールがゴールドマンサックスから届きます。
「俺じゃない」

金曜日、もはやクオンツ達のPFは限界に達していました。
金融危機が起ころうが、知った事ではない、ポジションを解消しなければ自分達が破産する!
多くのクオンツがその決意をしていた中、アスネスは分析によりある事に気づきます。
ゴールドマンサックスのGSAMだけポジションを縮小していない!
これは希望であると同時に恐怖をアスネスに呼び起こします。
何しろGSAMは1500億ドルの資金をヘッジファンド運用しており、それがポジション解消を始めたら、とんでもない事態が起きるからです。
その時、ゴールドマンサックスから届いた、たった一言のメールがアスネスの頭によぎります・・・「俺じゃない」
今こそ「疑心暗鬼」によって始まったこのマーケット崩壊を、「信頼」によって復活させる時と英断したアスネスはポジションの積み増しを指示します。
しかもポジションを増しているという事が他のクオンツやファンドに分かるように指示したのです。

「信頼」の連鎖はマーケットに広がり、一転、クオンツ達のポジションはかつてない急回復を果たします。

後に分かったのですが、ゴールドマンサックスは大損害を出しているにも関わらず、水曜日から3000億円の資金を投入してGSAMを支えていたのです。
それはアメリカの金融市場を支え、世界の経済に責任を持つ、世界一の投資銀行としての矜持だったのか・・・それもと、資本注入して耐える事が、自社の利益に最も繋がるという合理的判断だったのか・・・

この悪夢の一週間の後、1~2か月の間にクオンツ達は、この時被った損害を取り戻す程利益を出します・・・が・・・彼らは後に知る事になります。
「1万年に1回の例外」が三日連続で起きた悪夢の一週間は、これから2年間続く、サブプライム問題からリーマンショックへと続く世界大不況のたった最初の一週間でしかなかったことを・・・

その後彼らがどうなったかは、本を買って読んで下さい。


この悪夢の一週間が起きた原因ですが、
・マンデルプロの提唱したファットテールを無視していたため、例外的な値動きに対応出来なかった
・にも関わらず自分達のモデル(手に入れたと思い込んでいたザ・トゥルース)に絶対的な自信を持っていた
・クオンツ全盛であり、同じような事をするファンドが多かったため、薄利となるのをカバーするために多大なレバレッジを掛けていた
・似たストラテジーのクオンツが多く、同じポジションに偏っていた

・・・あれ??最後以外LTCM破たんの時と同じじゃないですかっ!進化してないっ!!

■後日談
ソープ
投資の一線から退いたソープは自己資金の運用をファンドに任せていたが、リーマンショックで損失を出し続けるファンドに業を煮やし、再び自ら新しいクオンツストラテジーを開発し、リーマンショック下にも関わらず、しかもレバレッジを一切掛けないで、18%のリターンを得る事に成功します。
伝説のクオンツはレバレッジこそが諸悪の根源であり、リスク管理こそ大事であると見抜いていたのです。

アスネス
アスネスはリーマンショックで損害を出し続け、奈落の底へ落されます。
かつて、アスネスはシカゴ大学で最も優秀な学生と言われ、シカゴ大学で最高の名誉であるファーマの助手という地位を手に入れていました。
しかしアスネスが博士論文に選んだテーマは「モメンタム」であり、それは恩師ファーマの効率的市場仮説を否定する物でした。
罵倒される覚悟で、恐る恐る卒論の指導教官であるファーマに論文のテーマを告げるアスネスにファーマは言いました。
「・・・データがそれを表しているのであれば・・・その論文を書きなさいっ!」
その瞬間、アスネスの中でファーマは世界で一番尊敬する人物になりました。

クオンツが非効率的価格を利用して利益を出していたのは、結局運がいいだけだったのではないのか、市場には非効率的な価格等存在しないのではないか・・・敬愛する恩師ファーマの唱えた効率的市場仮説は残酷なまでに正しいのではないだろうか・・・

クオンツに限らずファンダの人もテクニカルの人も、この考察はザ・トゥルースに至るためには避けては通れない道のりと思われます。

あなたはザ・トゥルースを手に入れる事が出来ますか?

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