2016-03-21 00:14 | カテゴリ:所見日記


アルゴの勉強がしたくて、この本買ったのですが、アルゴの挙動については、かなり詳しい事までは書いていなかったのですが、それでもこの本は素晴らしい本でした。
投資家必読と思いました。

1980年代、まだ株式売買が仲買人(マーケットメイカー)を通じて行われており、電子化されていない時代から一人の天才レヴィンを通じて歴史を順に追って取引所が電子化がされ、アルゴ全盛になるまで描かれていました。

レヴィンは運動・女子苦手の典型的なパソコンオタクでしたが、彼の聡明な頭脳はコンピュータが今後世界に革命を起こし、そしてその恩恵を証券業界が受ける事を見抜いていました。

高校を中退したレヴィンはウォール街に職を求めます。
彼がついたのは取引所のシステムとシステムを繋ぐ電子配管エンジニアで、俗に「配管工」と言われる職業でした。
※後に電子化された取引所ではこの配管工がアルゴ戦争で最も力を発揮する事になる

彼に取って学歴は全く意味のない物でした。
社会人になってから一度大学に入学した事があるのですが、レヴィンのコンピュータ能力は同級生は勿論、教授すら遥かに凌駕していたため、数カ月で「こんな所にいても意味がない。学ぶ事は何もない」と退学してしまいました。

ナスダックはマーケットメイカー方式を採用しており、マーケットメイカーがその特権的な立場を利用して不当に利益を投資家から抜いている不公平な市場でした。
※ニューヨーク証券取引所はオークション方式
それは一流のハッカー(クラッカーではない。いい意味でのハッカー)であり、当時ハッカーに流行っていた【情報は自由になりたがっている】を信念とするレヴィンに取って、情報を不自由にすることで、マーケットメイカーが不当に利益を得るのは許されない犯罪行為(実際、後にアメリカ証券取引委員会によって犯罪と認定される)でした。

そのレヴィンの才能を見抜いて拾ったのがマシュラーというウォール街のアウトサイダーでした。
マフィアのボスのようなマシュラーは、マーケットメイカーから利益を掠め盗るような事をしていました。

具体的には、ナスダックに導入されたSOES(小口注文自動執行システム)を利用して株価変更の一瞬の遅れに乗じて、スキャルピングをして、マーケットメイカーから利益を盗み取っていたのです。
※マーケットメイカーの特権を奪うSOESはブラックマンデーの際、マーケットメイカーが殺到する投資家の電話注文を意図的に無視した批判を払しょくするために導入されました。

初めて導入された未知の電子取引であるSOES・・・これを使いこなすのに、マシュラーはレヴィンの力が役に立つと考えたのです。
そしてレヴィンは期待に応えて画期的なシステムを作ります。
ウォッチャーと名付けられたそのシステムは、マーケットメイカーしか知り得なかった板情報を、パソコンに表示し、即座に注文を出す事が出来る取引ツールでした。
今でこそ、コンピュータとコンピュータが繋がるのは当たり前ですが、当時はまだネットワークという概念すら希薄で、コンピュータとコンピュータが繋がるなんて奇跡という時代です。
レヴィンはワークステーションのプリンターケーブルを利用してパソコンにデータを送る事を考案し、実装してしまいました。

マシュラーはダウンタウンから、勉強は出来ないかもしれないが、頭は切れる、そして金に対してハングリーな不良を大量にトレーダーとして雇いました。
不良達はGSやリーマン、モルガン、ドイツ銀行等の投資銀行には履歴書すら出せない人生の敗北者になる事が決まっているような連中です。
しかしマシュラー直伝のスキャルピングテクニックと、レヴィンの作ったウォッチャーを使えば上記の大銀行やマーケットメイカーと互角に戦えるどころか、打ち負かす事が出来たのです。
マシュラーのデイテック社では、不良達が修羅の如くウォッチャーを使いスキャルピングでマーケットメイカーから利益を掠め盗っていきます。
利益を盗まれたマーケットメイカーがデイテック社に怒鳴り込んで来て、トレーダーを殴りつけようとした際、マシュラーがペーパーナイフでそのマーケットメイカーを刺して、子分であるトレーダーを守る事件も起きました。
うまくいかないと、キーボードやマウスが空中を乱れ飛び、モニターがパンチで破壊され、頻繁に喧嘩が起きるまさに修羅場の職場で、しかし不良達は自分を拾ってくれたマシュラーを父のように慕い、忠誠を尽くして稼ぎまくります。

その不良達も学生時代には苛めの対象にしていたパソコンオタクで、ホームレスのような汚い服装をして、いつもパソコンで何かしているレヴィンには、畏敬の念を抱いていました。
彼らは、今まで出会った人物、これから出会うであろう人物の中でレヴィンが一番聡明だと思い、レヴィンが自分達の味方である事を神に感謝したのです。
その中には、後にレヴィンの相棒となるシトロンもいました。
シトロンは、悪戯が好きで茶目っ気たっぷりで童顔のパソコンオタクであるレヴィンのおかげで、自分達が利益を出すことが出来ると誰よりも認識していたのです。

ウォッチャーはデイテック社のトレーダーだけでなく、SOESを利用するスキャルパー、デイトレーダーに広く普及していきます。
そしてレヴィンはついに不自由で不公平で遅くて高価なナスダックに対抗すべく、自由で公平で速くて安い電子証券取引ネットワーク(ECN)【アイランド】を作ります。
アイランドはマーケットメイカーが担っていた役割(価格のマッチング等)を完全自動化した電子取引市場で、マーケットメイカーに不当に搾取される事なく、全ての板情報が公開され、投資家同士が自由に公平に速く安く売買出来る電子プール(プールとは取引所の意味)でした。
※勿論取引の結果は最終的にナスダックに送られるし、アイランドで裁けなかった注文はナスダックに転送されます。
※手数料はナスダックの2ドル50セントと比べて安い1ドルで、ナスダックに転送された注文は差分の1ドル50セントはレヴィンの会社が負担しました。

それはレヴィンの信念である【情報は自由になりたがっている】を具現化する物でしたが、実態は法の抜け穴を利用する盗っ人、横取り屋、プロのスキャルパーのための電子プールでした。

そして流動性の問題もありました。
使用者が少なければ流動性がなく、即ち、買いたい株が買えない、売りたい株が売れないという市場では投資家が集まりません。

その問題もほどなく解決します。
HFTの先駆者であるATD社がアイランドに興味を示します。
もともと、大学教授のウィットコムとエンジニアであるホークスが競馬の予想をするアルゴリズムを証券市場に応用したのがATD社の始まりで、彼らは完全自動コンピュータ高速売買システム【ボーグ】を生み出していました。
そのボーグにアイランドが最適である事は言うまでもないです。
ウィットコムはアイランドを調べるためにレヴィンに会った瞬間に、天才レヴィンに魅了され、アイランドで取引する事を決めました。
アイランドに参入するや否や、ボーグのアルゴリズムは猛威を振るい、同時に多大な流動性をもたらしました。

次にアイランドに参入したのは数学者シモンズ博士が創立した、従業員のほとんどが数学や物理や自然科学の博士号を持ち、株や投資の専門家がいないにも関わらずクオンツ型HFTにより年利40%という驚異的なリターンを上げていたルネッサンスでした。
ルネッサンスは当初、ならず者のマシュラーと関わりのあるレヴィンの作ったアイランドを疑っていた(フロント・ランニングしている)のですが、ルネッサンスの幹部も、レヴィンに会って話した瞬間、その天才ぶりと思想に感銘を受けてアイランドでの取引を決めました。

【流動性が流動性を産む】

新進気鋭の投資事業者や投資銀行までもが、次々とアイランドで取引を開始し、歴戦のデイトレーダー、ATD社やルネッサンスのアルゴ(もはや人間無視してアルゴ同士で戦う状況)、スピード狂のスキャルパー、投資銀行のトレーディングディスク等の注文が入り乱れる、最も活況な電子プールに成長し、ナスダックの注文の10%がアイランドから回送される状況となりました。

そのアイランドを開発運用するレヴィンのオフィスに来た人は皆驚きます。
子供用プールに亀が泳いでおり、トカゲがおり、なぜか軍用バズーカが置かれ、オフィスはごみと書類の山で足の踏み場もなく、スパゲティのように絡まった配線が入り乱れていました。
当のレヴィンもぼさぼさ頭に汚れたTシャツ、破れたズボンに使い古したサンダルと、ホームレスのような恰好。
その中に市場を席巻しているアイランドの複数のサーバが雑多に置かれていたのです。

しかし、アイランドのシステムは、最先端のデータセンターに整然と配置され最高級のハードウェアで構築されたナスダックのシステムよりも高性能でした。
当時まだあまり一般的になっていなかった分散コンピューティングをレヴィンは実用化し、1台のサーバが壊れても、システムが止まらないゼロダウンタイムを実現し、レヴィンのプログラミング能力により、注文の高速処理が実現されていたのです。
その最先端ぶりは米ヤフーの創業者が見学に訪れる程でした。

そして彼らが何よりも驚くのは、証券市場に革命をもたらしているアイランドを開発・運用しているのがチームでなく、レヴィンたった一人という事実・・・にも関わらず、レヴィンは会社で一切の役職を持たない平社員で、会社の経営は相棒シトロン等に任されていました。
勿論会社の利益もほとんどシトロンが手にします。
しかし、実質的に会社の影の支配者であるレヴィンに気を使って、「取締役副社長」という肩書を付けられた事がありました。
その事実に気づいたレヴィンは即座に「僕は肩書はいらない、誰も管理したくない。ただ自分のしたい事だけをしていたいんだ」と抗議して肩書を外させました。
レヴィンが求めていたのは金でもなく、地位でもなく、名誉でもなく、ただただひたすらに【情報は自由になりたがっている】というハッカー魂だったのです。

しかしアイランドの影響力が強くなるにつれ、レヴィン一人での開発運用に限界が訪れ、会社も組織として成長しなければいけない段階となります。
天才ハッカーレヴィンとダウンタウン育ちの野心に燃える弁舌の立つ元凄腕トレーダーシトロンの運営する子供の未熟なベンチャー企業デイテック・オンライン社は、天才プログラマーや経営のプロを迎え、大人の成熟した組織へと生まれ変わります。
※このレヴィンチルドレン(アイランドに関わった技術者や経営者)は後にHFT業者・取引所等へと羽ばたいていき、アメリカ証券業界を動かす人材となります。

その過程で違法取引をしていたマシュラーと、彼の秘蔵っ子であったシトロンが問題となります。
アメリカ証券取引委員会は常に彼らを狙っていました。
そして刑事告訴の可能性がある情報を入手したデイテック・オンライン社の新COOニコルはアイランドを守るため、クーデターを起こしてシトロンをデイテック・オンライン社から放逐し、マシュラーの影響力も排除する事に成功します。

そしてレヴィンの【情報は自由になりたがっている】という信念に基づく証券革命は次の段階に突入します。

現在多くの取引所で採用されている【メイカー・テイカー】システムをアイランドに世界で初めて実装したのです。
通常は取引所は注文に対して手数料を徴収します。
当たり前ですよね。この常識を覆しました。
アイランドでは、市場に流動性をもたらす注文(=メイカー)には報奨金を払う事にしたのです。
※この仕組みは東証では採用されていません。
これによりアイランドの流動性はさらに高まりました。

ただしこれは諸刃の剣でした。
レヴィンも後に「この仕組みにより、我々は怪物を生み出してしまった」と後悔しています。
メイカーとなって報奨金を得る事を目的としたアルゴをHFT業者が生み出したのです。
つまり、
・安く買って高く売る
・高く空売って安く買い戻す
以外の三つ目の利益を出す方法(=メイカーとなる)を作った事により、レヴィンの最も嫌っていた中間搾取(=マーケットメイカー)をするHFT業者を生み出してしまったという後悔です。

そして長年投資家の利益を損ない、取引所(ニューヨーク証券取引所やナスダックのマーケットメイカー)に不当な利益をもたらしていた分数表示をやめ、10進数表示とする大革命に着手します。
これは長い間、規制当局、連邦議員も取引所に圧力を掛けて実現しようとしていましたが、既得権益を手放したくない取引所によって、「分かりました→延期」「やります→延期」を繰り返していた事案でした。

レヴィンのアイランドは他の取引所に先駆けて10進数表示を実施。
業界から凄まじいバッシングを受けるも、結局はレヴィンが正しい事が証明され、証券市場全体がアイランドに追随する形で10進数表示を受け入れることなりました。

それによりスプレッドの幅が劇的に縮まり、もはやマーケットメイカーは利幅を抜くのが難しくなり多くが廃業となりました。
人間のトレーダーも1セント単位でビットとオファーが並ぶ板状況で利幅を抜くのが難しくなりました。
彼らに代わって市場を支配したのが高頻度トレーダー業者(=HFT業者)のアルゴリズムでした。

市場に公平と自由をもたらす事を目的としたレヴィンによる証券革命の結果、マーケットメイカーの没落とHFT業者の台頭を促進し、結果として、人間はそっちのけでアルゴリズム同士が戦争をし、より優秀なアルゴ、より速いアルゴ(サーバを取引所内に設置する、高速ネットワークを利用する、高性能サーバを使用する、高速に動くプログラム等)が不当に利益を搾取し、それはレヴィンの嫌っていた中間搾取(=マーケットメイカー)以外の何物でもなく(第一世代のATDやルネッサンスより高頻度取引をする新世代のHFT業者のアルゴの平均株保有時間はわずか2秒であり、注文の90%を取り消す)、人間にとっては不公平で不自由な市場となってしまった事は、天才レヴィンをもってしても予想出来ない未来だったのです。

そしてアメリカ証券取引委員会の手はついにレヴィンに掛かりました。
不正取引と不正会計の罪でデイテック社幹部に7000万ドルの罰金を命じ、それは証券不正取引に関する過去最大の和解金額でした。
シトロンには2250万ドル、マシュラーには2920万ドルの罰金が科せられ、二人は証券業界から追放されました。
※マシュラーは引退して優雅な老後(資産は10億ドル近かった)を送り、シトロンは「次は通信が革命を起こす」と、通信会社を創業しました。
レヴィンには不正会計に加担した罪で(レヴィンは自分が作ったシステムが不正会計に使われると知らなかったと言ったが)100万ドルが科せられたものの、証券業界からの追放は免れました。

しかし、レヴィンの革命意欲は衰えることなく、デイテック・オンライン社を離れ、新たな証券革命に着手しようとしていました。
ある委員会がSIP(市場全体に取引データを配信するコンピュータシステムのセキュリティーズ・インフォメーション・プロセッサー)があまりに遅すぎるため、異なるプール(取引所)間の僅かな株価の差を狙うHFT業者に不当に利益を搾取されている事を改善するために、新しいSIPを作ろうとしていました。
これに企画書を提出したのです。そしてたった1ドルでこの仕事を請け負うと宣言します。
※他の企業の入札額は数千万ドル。

レヴィンの神童っぷり、そしてレヴィンの作ったアイランドの優秀さ(特にその高速処理プログラミングはSIPに役立つ)を熟知していたATD社のウィットコム始め、多くの専門家がレヴィンの企画書を支持しましたが、アメリカ証券取引委員会に処罰されていた過去がネックとなり、落選してしまいます。

そしてついにレヴィンは証券業界から離れます。
後にアイランドは、アイランドを買収したナスダック(第二章で触れます)により電子取引システムとして世界50か国以上、70の取引所に広がります。
それをたった一人で作ったレヴィンという天才ハッカーの名前はGoogleで検索しても出てこないでしょう。
レヴィンは名誉を求めず、あらゆる取材を拒否し、マスコミに写真を撮られる事もなかったからです。

アメリカ証券業界のみならず世界の証券業界に電子革命をもたらしたのは【情報は自由になりたがっている】という信念を貫いた一人の無名の天才ハッカーだったのです。

第一章はここまで。
第二章はHFT業者の興盛とAIについてです。
第二章は↓
『ウォール街のアルゴリズム戦争』第二章「電子プールの鮫とAI」



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