2016-03-26 08:21 | カテゴリ:勉強や投資情報


『ウォール街のアルゴリズム戦争』第一章「孤高の天才ハッカー」に続いて第二章です。

レヴィンが電子証券取引ネットワーク(ECN)アイランドを作ってから多くのECNが誕生しました。
中でも知っておかないといけないのがパットナムが作ったアーキペラゴです。

アーキペラゴとは「列島」という意味で、その名前からもアイランド「島」を意識した電子プールでした。
※プールとは取引所の意味
第一章でも書きましたが、新たなECNの問題点は流動性の確保です。
アーキペラゴはこれを独創的な発想で解決します。
「列島」という意味が示すように、アーキペラゴは他のプールへの電子回送システム(プールとプールが連なるように繋ぐ=列島)に注力していました。
※アーキペラゴでマッチング出来なかった注文は即座に最適な他のプール(アイランドやインスティネットやナスダックやニューヨーク証券取引所等)へ回送されます

アーキペラゴを作るのにパットナムが頼ったのはECNの先駆者レヴィンでした。
メールや電話で数えきれない程やり取りし、時にはレヴィンはメールにソースコードを書いて、「このプログラムを使えばいいよ」と送る事すらありました。

会った事のなかった二人ですが、たまたまパットナムがレヴィンのオフィスの近くに来たので、オフィスに立ち寄りました。
すると予想外の反応をレヴィンがします。
パットナムに抱き着くと、腰を持ち上げて狂喜乱舞したのです。
まるで生き別れた兄に会ったかのように。
この時パットナムは気づきます。
パットナムはアイランドを同業他社のライバルだと思っていましたが、レヴィンはアーキペラゴを作ったパットナムの事を、レヴィンの思想【情報は自由になりたがっている】を共に具現化してくれる同士や家族のように思っていたのだという事を。

他のプールに注文を回送するとはいえ、やはりアーキペラゴに取っても自社プール内で取引をマッチングするのが一番利益になり、そのための流動性確保は課題でした。
そしてアイランドと同じようにHFT業者のアーキペラゴへの参入を望みました。
HFT業者は天才プログラマであるレヴィンの作った高速処理が行われるアイランドに慣れていたため、アイランドと比べて遅いアーキペラゴに露骨に不満を言ってきました。
「ミリ秒注文の執行を早くしろ!」→「はい!」
「マイクロ秒注文の執行を早くしろ!」→「了解!」
「ナノ秒注文の執行を早くしろ!」→「頑張りました!」
「こういう注文形式を新たに作れ!」→「喜んで!」
「この注文形式も作れ!」→「え・・・それは他の投資家の不利益に・・・作ります・・・」
「アーキペラゴのサーバの隣にうちのアルゴのサーバを置かせろ!」→「コロケーションはやってないのですが・・・出来るようにします・・・」

止まる所を知らないHFT業者の要望にアーキペラゴ始め、ECN業者は莫大な資金を投じて応え続けました。
※こうしたECN業者とHFT業者の癒着、特に特定のHFT業者を優遇する注文形式は、後にアメリカ証券取引委員会の捜査の対象になります。
流動性を得るという目的のため・・・そこには人間の投資家など完全に置き去りにされており、人間の投資家は電子プールを泳ぐ鮫(HFT業者のアルゴ)の餌でしかありませんでした。

鮫(アルゴ)はハンター検索アルゴによって鯨(人間の大口注文)を検知し、大口の欲しい株を先回りして買い漁り、高値で売りつけます。
シャークアルゴ
ゲリラアルゴ
ステルスアルゴ
ソア(雷神)アルゴ
スナイパーアルゴ
ピンキングアルゴ

等が電子プール内を光速で跋扈し、人間を食い物にする所か、アルゴ同士で戦いを繰り広げます。
新世代のHFTであるゲッコー社やトレードボット社のアルゴは平均株保有時間2秒、注文の90%は取り消すという人間にはついていけない次元に突入していました。
勿論、先物と現物を比較して価格差が発生したら高速で価格差から利幅を抜く等の、昔ながらのHFTの得意技も使っていました。

このような状況に堪り兼ねた大口投資家は閉じられた自分達だけの取引所(ダークプール)を作りアルゴから避難しました。
しかし、ダークプールにもアルゴは入ってきて、ダークプールと他のプールとの価格差が発生した瞬間、その価格差から利幅を抜いていきます。

このようにしてHFTのおかげで急成長したECNは既得権益であるニューヨーク証券取引所、ナスダックと共存しつつも対立状態となっていました。
※HFTもECNのおかげで急成長できたのですが

ナスダック VS アイランド
ニューヨーク証券取引所 VS アーキペラゴ


の対立構造が生まれていました。
レヴィンはマーケットメイカー方式によりマーケットメイカーが不当に中間搾取するナスダックを目の敵にし、パットナムは独占企業であるニューヨーク証券取引所を目の敵にしていました。

しかし・・・新たなレギュレーションNMS(注文執行義務規則)の導入がこの対立構造に変化を与えます。
天敵同士であったニューヨーク証券取引所とアーキペラゴが電撃合併したのです!!
裏で動いたのはゴールドマンサックス。
アーキペラゴに出資し、良好な関係を築いていたゴールドマンサックスは、ニューヨーク証券取引所のトップに自社の人材を送り込み、この薩長同盟とも言える天敵同士の合併を成し遂げ、維新の如き米国金融史にとって重要な分岐点としたのです。
※どのぐらい天敵だったかというと、パットナムはヘリコプターから「独占企業」と書いたトイレットペーパーを嫌がらせでニューヨーク証券取引所にばら撒いたら、どのぐらいの犯罪になるのか、自社の弁護士に真剣に相談していたし、合併後、アーキペラゴの技術者がニューヨーク証券取引所で仕事をしていたら、後ろから背中を殴られた(物理攻撃!)程でした。

そのわずか二日後、ナスダックがアイランドを電撃買収しました。
※当時アイランドはインスティネット(昔からある取引所で、アイランドのライバルだった)と合併しており、そのインスティネットからナスダックはアイランドのシステムを購入したのです
※当時既にレヴィンはアイランドを離れていました

このような変化をもたらしたのは、レギュレーションNMSによって、規定された以下の条項でした。
・株の売買は一番良い株価を付けている取引所で行わなければならない
※ナスダックで取引したいんだ!って投資家が思っててもダメ!一番安い値段を付けている取引所優先
・銘柄が上場されている取引所を通さずに、どの取引所でも直接売買可能
※ニューヨーク証券取引所にしか上場されてない銘柄をどの取引所(ナスダックでもアイランドでもアーキペラゴでも)でも直接取引可能

これは、ニューヨーク証券取引所、ナスダックがECNを買収したという形式を取っていましたが、実質的には、ECNに屈した(電子証券取引ネットワークを利用しなければもはや生き残れない)という事を意味していました。

この激震はHFT業者に取っては脅威と映りました。
彼らは超高頻度取引をしており、速いの次に大事だったのが、安いという事です。
ライバル企業が合併したら、取引料金を値上げしてくるのが目に見えていたからです。

HFT業者が取った解決策は・・・HFT業者自らが電子プール(電子取引所)を作る事でした。
この後アメリカには各種プール(電子プール、ダークプール含めて全ての株売買が出来る取引所)を合計すると70以上のプールが誕生する事となります。
もはやコンピュータなしでは各プールを泳ぐ事は出来ず、それはHFT全盛期を意味していました。
そしてリーマンショック下の金融危機の中、基本的にヘッジを掛け、リスクフリーのはずのクオンツ型ヘッジファンドですら苦戦、または大損する中、HFT業者は儲けまくったのです。

このような異常な状況を一般人に周知したのはある事件でした。
ゴールドマンサックスに勤務していたプログラマーアレイニコフは退職する際、HFTアルゴリズムのソースコードを次の職場で利用しようとコピーし、辞める前に自分のパソコンの操作履歴を削除して辞めました。
自社のプログラムが盗まれた事を検知したゴールドマンサックは即座にFBIに通報し、速やかにアレイニコフは逮捕されました。
アレイニコフは自分に降りかかった意味不明の災難に驚愕します。
次の職場で参考にしようとコピーしたソースコードの大部分はオープンソースだったのです。
操作履歴を削除したのは証拠隠滅ではなく、次のパソコン使用者のためにゴミを掃除しておこうというマナーだったのです。

しかしこれを証券業界にも、IT業界にも無知だった検察は、何億ドルという損害を会社に与える、空前絶後の産業スパイ行為として、誇大妄想な調書にまとめ上げたのですっ!
一般人はそれを見て、
「たかがプログラムコピーしただけで、証券業界を揺るがすような犯罪になるのかっ?!プログラム(アルゴリズム)ってそんなに凄いのか?!今一体ウォール街で何が起きているだっ!?」
と不安になります。

そしてその不安が現実の物に・・・フラッシュクラッシュ・・・ダウ平均が1日で1000ポイント下落し、347ポイントの下落まで反発して終了し、その異常なボラティリティに、注文が取り消されるという臨時処置が取られた異常事態の発生・・・

そのフラッシュクラッシュを経ても、速さを求めるHFT業者の戦いは止まる所を知りません。
スプレッドネットワーク社はシカゴ(先物取引所)とカータレッド(ナスダック)の間に直線的な光ケーブルを3億ドル掛けて敷設しました。
既存ネットワークよりもわずか3ミリ秒通信を速くするために・・・1000分の1秒に1億ドルを要した事になります。
この回線を使う業者は回線使用料が高額にも関わらずHFT業者ですぐに埋まりました。
HFT業者に取って、1ミリ秒の優位は1億ドル以上の価値になったのです。
※さらに光ケーブルより速い電磁波によるデータ送信施設も作られており、スプレッドネットワーク社より、3ミリ秒速くデータを送る事が出来ます。
現在このような光回線は世界規模で、世界の各取引所を繋ぐ計画として推進されています。

勿論世界の証券取引所は電子化され、ナスダックはアイランドを世界50か国以上、70か所の取引所に広めました。
HFT業者の活躍の場は世界へと広がっています。
世界規模のマネーグリッドの構築によってもたらされるのは・・・世界規模でのフラッシュクラッシュ・・・既にそれはスプラッシュクラッシュと名付けられ起きる日を待っているのです。

ロンドンの技術系企業フィックスネティックス社は740ナノ秒で取引を処理する世界最速の取引マイクロチップを開発し、取引をピコ秒(一兆分の一秒)で計測するという噂が立ちました。
ついに、ピコ秒という、意味が分からない領域にHFT業者の戦いは突入しています。

そしてコンピュータの証券業界への進出は、HFT業者とは別の形でも進んでいます。
ビックデータを利用しAIで、ファンダメンタルズ投資を行おうという試みです。
コンピュータはバフェット超えを目指しているのです。
具体的には、アップルで言えば、アップル関連のブログ、スマフォ業界の専門家による演説、アイフォンが生産されている工場からの出荷データ、アップルでの経験を持っている求職者の数を測る求人サイト、アマゾンや他のECサイトでの販売実績データ、ツイッターの書き込み、ライバル製品の動向等、アップルに関する全ての情報をネットから収集し、公になる前のアップルの業績予測をする(=ファンダメンタルズ分析)のです。
この試みはうまく行きませんでしが、うまく行っているAIの利用方法もあります。

理系出身の4人の若者によって設立されたリベリオン社はバフェットの投資戦略と似た事をするシステムを、機械学習で進化する自動投資システム「スター」として作り上げました。
信用取引をせず(現物のみで空売りもしない)、ロングだけというスターの人口知能は、リーマンショック下でもクズ株となった金融株等を買い続け、破産寸前までいき、4人の若者を絶望の淵に追いやりますが、経済の立ち直りと共に大反発し、常にS&P500を上回る利回りを出したスターは、伝説的なフランス人バリュー投資家ジャン・マリー・エベヤールに認められ、彼はリベリオン社に投資しました。

他にも、自ら進化する機械学習AIにより、ビックデータから、株価に影響するアノマリーを見つけ出す試みもあります。
例えば「ウォール街のレストランの昼食の予約状況が多ければ、トレーダーが安心して外食しているという事であり、後場の株価は上がる可能性が高い」等、また、そういう人間が思いつくようなアノマリーではなく、株価と全く関係ないように思えるのに、株価に影響しているアノマリーを機械学習AIでビックデータの中から見つけ出すのです。
それを実用化したATMファンドは確実に年率7%を稼げる秘密のアノマリーを見つけ出し、二年で5000万ドルの資金を集めました。

今やウォール街での最先端は、本来の「投資(ファンダメンタル・テクニカル)」とはかけ離れた知識も必要となっています。
・適正価格(株価だけでなく、先物、オプション、債券、複雑な金融商品等)を見抜くクオンツの知識
・あらゆるプールに最適・最速にリンクし、HFT業者のアルゴに負けない注文を出せる配管工の知識
・新しい投資スキームを見つけるための(機械学習)AIの知識

そして電子プールはアルゴリズムが支配し、プールの管理者である取引所はHFT業者ばかり優遇する状態です。
東証もロコケーションや、違法行為である見せ板・買い上がり・売り崩しをしてもアルゴなら不問(勿論人間がやったら逮捕)と、HFT優遇をしており、東証の出来高の50%はHFT業者のアルゴリズムの注文となっており、日本も対岸の火事ではありません。

少しでも知識を身に付け、最大の敵であるアルゴリズムに勝てないまでも、挙動を把握し、被害を軽減、もしくはうまくアルゴリズムを利用・乗りこなすことが、短期トレードで利益を出すのに一番大事な事となっています。

↓一章・二章で書いた事の詳細が知りたい人は購入を検討してみてはいかがでしょう。これは本当に素晴らしい本です。


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